食道がん
食道がんは深達度診断、リンパ節転移、遠隔転移の診断に基づき治療戦略が立てられる。他の消化器癌に比べ食道がんは早期から広範囲の遠隔転移を来たしやすく、再発率も高い特徴があり、治療前の全身評価は重要である。FDG PET/CT検査はとりわけ進行食道がんの治療前における転移巣や他臓器病巣の検出に有用である。術前深達度が T1b SM以深の症例では、術前にFDG PET/CT検査を施行することが望まれる。また治療後の転移再発の診断や治療効果判定などにも有用である。治療開始後早期の集積低下は重要な予測因子となる。食道がんに対する治療成績が向上するに伴い,個々の症例ごとに適切な診断を行いステージングすることは重要である。
① 食道がんの原発巣のFDG PET/CT検査による検出
食道癌のうち扁平上皮癌は細胞密度が高くFDG集積は高度で、食道粘膜の生理的集積は低いため病変とのコントラストはつき易い。本邦では、細胞密度の高い扁平上皮癌がほとんどで、腫瘍組織への集積は高度。しかし、表在癌では見えない。PET装置の空間分解能の制限により、進達度mの早期がんの検出や腫瘍の壁深達度診断は困難であるが、主病巣の検出感度は90%以上と良好で、局所に原発巣が限局しているかどうかの判定は可能で、手術適応の決定に有用とされる。高分化腺癌ではFDG集積は乏しいことが多く、20%程度しか集積陽性とならないため注意が必要である。食道がんのFDG集積は腫瘍増殖能を反映するとされ、手術前や他治療前のFDG PET/CTは予後判定にも有用とされる。
② 食道がんのFDG PET/CTによる病期診断
食道癌はリンパ節転移の頻度が高く、内視鏡による切除術が対象となる早期癌例でも5%前後、外科的切除術が対象となるT2~3では60%前後に転移が観察される。このため食道癌の正確なリンパ節転移診断は治療方法の選択、手術範囲の最小化に極めて重要である。食道がんのFDG PET/CTのリンパ節転移の診断能は、感度46.0ー93.9%、特異度92.1ー99.5%と報告されている。
このうち腫瘍近傍の所属リンパ節転移の検出感度は、原発巣のFDG 放射能の影響で32-57%と低く、病期分類を行う際には、内視鏡、内視鏡超音波検査、CT検査と併用すべきとされる。一方、FDG PET/CTは遠隔の転移リンパ節や転移巣の検出には優れ、CTや食道内視鏡検査で見逃された遠隔転移が約10-28%の例で発見され、術式変更が17-20%程度に起きると報告されている。
③ 食道がんのFDG PET/CTによる治療後の経過観察
F-18 FDG PET/CT検査は食道癌治療後の再発や経過観察中の転移診断に関して極めて有効である。全身検索が可能なFDG PET/CTは、術後や放射線・化学療法後の再発巣の早期検出に優れ、その正診率93%は、CTの78%、超音波内視鏡の78%に対し優れるとの報告がある。治療後の再発・転移診断を目的としてFDG-PET検査を行った場合では、FDG-PET検査施行によって治療方針が変更される割合は20.5%に達し,臨床的有用性は高いとされる。治療後の評価においてPETの診断能は CT を上回り、転移臓器として多い肺、肝臓、骨のうち、特に骨と肝臓の転移診断に優れている。肺転移の検出はCT が最も優れるが、 PET/CT合体装置では、CT診断も同時に行うことで、1回の検査で、より高い正診率を挙げる事が可能である。食道がんの術後再発はけっして少なくなく、手術の結果リンパ節転移がありハイリスクと考えられる場合や,臨床的に再発が疑われる時は,全身の正確な情報を知るためにも積極的にFDG PET/CTを行う必要がある。
術後再発巣のFDG集積の程度は予後とも相関するとされる。FDG PET/CTは、術前化学療法後の手術適応決定に必要な原発巣の治療効果予測、リンパ節転移に対する治療効果、遠隔転移の有無の情報を一度の検査で提供する点で優れており、集約的治療の戦略に重要な役割を果たす。
⑤ 食道がんと重複するがんのFDG PET/CT検査による検出
食道がんでは、同時性や、異時性あわせて18%もの重複癌があり、 食道癌の発生には喫煙と飲酒が大きく関与している.喫煙歴が長い食道癌患者では,しばしば肺がんや下咽頭がん,喉頭がんの合併が見られる.食道がんが見つかった場合は,肺とともに咽頭や喉頭を十分に観察しておく必要がある。このためFDG PET/CTによる治療前の全身評価は重要である。
転移性肝がん
転移性肝がんのFDG PET/CT検査の有用性
1. 転移性肝がんのFDG PET/CT検査による検出
転移性肝がんは、最近は化学療法の急速な進歩、肝切除の進歩により、一部の転移性肝がんでは根治可能であったり、延命効果が認められる。全身を見渡すFDG PET/CT検査では、悪性腫瘍を有する患者の腫瘍進展を全身的に評価する中で、肝転移巣が検出される例は多い。肝転移を検出する上では、肝臓の造影CTやMRI検査、超音波検査が主要な検査となるが、造影CTで検出されなかった転移巣がFDG PET/CTで描出された例も少なからず報告されており、特に横隔膜直下のドーム部の病変の報告が多い。転移性肝がんでは、原発巣の性質がFDG集積の程度に影響し、FDG高集積を示す原発巣からの転移巣は高集積を示すが、FDG集積の弱い前立腺癌や嚢胞性膵癌の肝転移巣は集積が乏しい例があり注意を要する。また、呼吸による動きの影響の強い肝臓では、画像劣化により小さい転移巣が描出しがたくなる傾向があり注意を要する。最近では呼吸同期/息止め撮像による改善が試みられている。
2. 転移性肝がんのFDG PET/CT検査による治療効果判定
FDG PET/CT検査は、他の悪性病変と同様、転移性肝腫瘍の治療効果判定に有用とされる。特に分子標的薬剤の適応がある転移性肝腫瘍で使用した場合には、腫瘍細胞の障害は存在しても腫瘍縮小効果が従来の抗癌剤に比較して乏しい傾向があり,糖代謝変化を提供するFDG PET/CT検査は、大きさの変化に乏しい腫瘍の治療効果判定に有用性は高い。FDG PET/CT検査は、肝転移巣に対するラジオ波焼却術後の再発の有無の検出にも有用で、CT単独検査より検出能は高いと報告されている。